編(アム)

オーストラリアでソーシャルワーカーになった中年の話

2023年10月14日

10月14日は私の誕生日でして。昨日はオーストラリアのReferendum Day(国民投票の日)でした。

 

何に関する投票かというと、6万年以上続いてきたアボリジナル・トレス海峡島民の方々をオーストラリアの「最初の人々」として憲法内で「認知」するか否かへのYESかNOかを決めるものです。具体的には、アボリジナル・トレス海峡諸島民の人々で構成されるアドバイザリー機関を設置し、議会に対して「我々としてはこう思いますよ」という助言をする仕組みを設立するということ。その機関に決定権はありません。

 

この地に6万年以上住んできた彼らは、200数十年前に突然やってきたイギリスをはじめとする欧米系の入植者たちにずっと抑圧されています。つい数十年前まで、人間としてすら数に入れられず、投票権や仕事に対する報酬を否定され、さらには「白人と交配させて肌の黒い奴らを根絶やしにしよう」という政策のもと、ソーシャルワーカーを始めとする非先住の人間が子どもをさらって虐待し、親子の絆や文化との断絶を促してきたその影響は、今日のアボリジナル・トレス海峡島民のオーストラリア人に対しても続いています。子どもを愛する方法がわからない、何故なら自分の親が自分を愛してくれた記憶がないから。暴力と支配をもってしかパートナーと関係を築けない、自分の家族がそうだったから。ここへ、今なお続く差別が加担します。肌が黒いだけでショップ内で警備の人に付け回される、文化やトラウマを理解しない教職員によってすぐに停学にされる。そうして、現在も少年院・刑務所の入所者や児童保護施設の収容者、12年生(日本の高3)の修了者、病気の罹患率や寿命など、あらゆる分野においてアボリジナル・トレス海峡島民のオーストラリア人は不利な立場に置かれています。

 

「欧米系の入植者たちに抑圧されている」と言いましたが、比較的新しい移住者も差別に加担しています。私の友人も「アボリジナルな住民が多いからあそこは治安が悪い」と発言したり、最近ではTwitter上で「この街はアボリジ●が多いのが難点」といった投稿があったりと、日本から来て彼らの国に住まわせてもらっている立場の者が、さらなる抑圧を生み出しています。まじ全てのオーストラリア入国者に強制学習させて欲しい。そんな私も恥ずかしい過去があり猛省は一生続きます。

 

そうした流れに対し、もっと政策がアボリジナル・トレス海峡島民のオーストラリア人の実情にあったものになるよう試みよう、というのが今回の提案でした。とてもつつましやかで、私からすると「もっとラディカルにいかないと本当の権利擁護にならないのでは」と思うものでした(同じ理由で、今回のReferendumには賛成しない、という人も多くいると思います)。でもラディカルにいくとNoの投票が多くなるだろうから、「非先住のオーストラリア人の権利は脅かしませんよ~、でも最初の人々はアボリジナル・トレス海峡島民の人々なんですよって憲法の中で認知してもらえますかね~」とすごく遠慮がちに非先住オーストラリア人を「招待」した内容でした。そもそもこの決定を非先住オーストラリア人(人口比で多数派)に委ねるっていう時点でね。アレなんですけども。

 

まぁきっとYESの票が多くなるだろう、私は36歳の誕生日を、オーストラリアの非正義是正の第1歩となる日に迎えるんだ、と信じていたんですけどね。

 

NOが多数だったみたいです。ほとんどの地で。

 

………………………………………しんど。

 

日本の選挙の度に落ち込むのがしんどくて、もうちょっと政治がマシな土地に住もうっていうのがオーストラリアに来た背景の1つだったんですけど、読みが甘かったかーーーー。オーストラリアって、日本より市民社会が熟しているなっていう印象だったんですけど、私が見ていた「市民社会」って、白人の白人による白人のための市民社会で、アボリジナル・トレス海峡島民オーストラリア人についてはすごーく後進的なんだっていうことがわかりました。わ~~どうしよ~~~また引越す!?いづこへーーーー

 

私はソーシャルワークを勉強しているので周りはYES派が当然という流れでしたが、それって少数派なんですね(クイーンズランド州は30数%しかYES投票がなかったようです)。私の好きなKon Karapanagiotidis氏は「オーストラリア人として恥ずかしい」と発言していました。私もいつも日本の投票で「日本人として恥ずかしい」と思っているので、本当、、、わかる、、、彼はオーストラリアのギリシャ人コミュニティに「ギリシャ人移民も最初は差別の対象だった、そして先住のオーストラリア人たちはギリシャ人移民を受け入れた」、だからYESでしょ、と呼びかけていたのです。自分の先祖が不正義をもたらした・もしくは不正義にさらされた、という点が、是正へのモチベーションとはならないのですよね。もちろんアボリジナル・トレス海峡島民オーストラリア人の間でも意見は分かれており、NOキャンペーンをしていた人たちにはYESへの懸念があり(そしてちゃんと提案内容を理解していない説、超あり得る)、色んな要因によりNOが多数派となったということなのですが。

 

うん。

 

うぅ。。。